ATRIAL FIBRILLATION

心房細動と診断された患者さんへ

心房細動は、不整脈の1つで、心臓の中の左心房という部分が細かく震えることを特徴としている不整脈です。

高齢化に伴って罹患率が上がってきていると言われており、日本では80歳以上のおよそ20人に1人の方が心房細動に罹患しているという報告があります。
心房細動の原因は、肺静脈といって肺から心臓に戻ってくる血管の根元から、異常な電気信号が発生するためであることが分かってきました。

その結果、左心房が小刻みに震えたり、心拍が乱れたりする不整脈を起こしてしまうのです。
通常の心房細動は、最初は出たり止まったりする発作性心房細動(数時間~数日で止まるもの)で始まり、次第に不整脈が止まりにくい状態へ移行していくと考えられています。

心房細動では何が危険なのか

心房細動は、左心房という心臓の1つの部屋が小刻みに震えますが、その結果、左心房の中の血液が停滞してシェイクされている状態になります。
そうすると左心房の中で、血液が固まって血栓ができてしまいます。
この血栓が脳に飛ぶと、脳梗塞の原因となります。

心房細動が原因で起きる脳梗塞は、大きな血栓が心臓から飛んできて詰まるタイプの梗塞ですので、アテローム性脳梗塞(通常の動脈硬化が原因で起きるタイプのもの)に比べると、梗塞の範囲が広く、後遺症を残しやすいと言われています。
心原性脳梗塞は誰でも同等の確率で起きてしまうわけではありません。75歳以上の方、糖尿病がある方、高血圧をお持ちの方、心不全を併発している方、脳卒中などの既往がある方では、心原性脳梗塞のリスクが高いと言われています。

他にも、心臓弁膜症がある、左心房が非常に大きいなども血栓ができやすい要因となります。
また、心房細動が起きて、特に脈が非常に早くなってしまうような場合、心不全を引き起こすことがあります。
心不全をおこすと息が切れたり足がむくんだり、胸が苦しくなったりするような症状が出てきます。

このように、心房細動自体は致死的な不整脈ではありませんが、治療をしないと非常に危険な合併症を引き起こすことが知られています。

心房細動の治療

心房細動の治療は、

  1. 心房細動を治す治療
  2. 心房細動とうまく付き合っていく治療

の大きく分けて2つの治療法があります。各々詳しくみていきましょう。

1. 心房細動を治す

心房細動を治すためには、薬物を使う方法、電気的除細動、カテーテルアブレーションの3つがあります。
抗不整脈薬と言われるお薬を使用して心房細動が出ないようにする治療が薬物療法です。

初期の心房細動や、発作性心房細動には比較的有効であると考えられていますが、発症から年数がたってしまったり、持続性の心房細動となってしまうと、薬物で治療することは難しく、不整脈薬によってかえってほかの不整脈を誘発してしまうこともあります。
電気的除細動は、心房細動によって急性の心不全になってしまっているような患者さんに対して、急性期治療として用いることがあります。
いわゆる電気ショックと言われているもので、AEDと原理は同じですが、心肺停止の患者さんに使うよりもずっと少ないジュールを用いて除細動します。治療時には、静脈麻酔薬を使用し、痛みやショックを感じないような処置をして行う治療になります。

いったん止まっても再発してしまうことも多いです。
カテーテルアブレーションは、現在、心房細動を根治させることのできる唯一の方法です。
心臓の中にある心房細動の原因となっている異常な電気刺激を発する部分(主に肺静脈基部)を、高周波(350~750kHz)を用いて焼灼する治療です。心臓の中にカテーテルという細い管を入れ、そこから高周波を用いて焼灼しますので、数日間の入院を要します。
しかし、この治療によって、発作性心房細動の方では70~80パーセント、持続性の心房細動の方でも60%~70%の方で根治が可能です。
心房細動以外の不整脈がないことや持続時間が短いこと、心臓弁膜症や心機能低下などの心臓そのものの異常がないこと、心臓の中の左心房という部屋が大きくなっていないことなどが、根治出来るかどうかの予測因子となっています。
予測根治率が高い方の成功率は90%と言われており、カテーテルアブレーションをお考えの場合、まず根治出来るかどうかを判断することが大切です。当院に受診していただいて、根治術が可能な状態であるかどうかをご相談いただきますと、ホルター心電図の検査(24時間心電図をつけて不整脈を観察する検査です)、心臓超音波の検査(心臓の動きを直接見る検査です)などを施行し、アブレーションの成功率を予測することが出来ます。
その他、糖尿病などの生活習慣病のコントロールが良いことも根治率を上げる要因となっています。

2. 心原性脳梗塞を予防する治療

持続性心房細動になってから時間が経過した、心臓弁膜症があるなどの理由でアブレーションが難しい患者さんには心房細動とうまく付き合っていく治療を行います。
先ほども述べましたように、心房細動は心原性脳梗塞、心不全などの疾患の原因となります。
上手く付き合っていくためにはこのような合併症を防ぐ薬物療法を行います。

① 心原性脳梗塞の予防

血液をサラサラにするお薬を飲むことで左心房の中で血栓ができないようにする治療が基本です。
以前はワーファリンというお薬以外に有効な内服薬がありませんでしたが、最近より出血のリスクの少ない新薬が発売されています。
ワーファリンは、毎日のお食事の内容によって効果が強く出すぎてしまったり逆に弱くなってしまったりするという問題点があります。
頻繁に採血検査を行って、お薬が多すぎたり少なすぎたりしないようにコントロールをする必要があります。
私の経験例では、発熱などで食事がとれなくなってしまった患者さんが、ワーファリンが効きすぎて脳出血を起こされたというケースがありますし、逆に、旅行などで食生活が変わったらワーファリンが効かなくなって脳梗塞を起こされたという方も経験しています。
いずれも数日の食生活の変化で、大きく変わってしまいます。
これに比べ、新しく出たDOACと呼ばれる抗凝固薬は、お食事の影響を受けにくいことが分かっています。
また、以前は抗血小板薬(バイアスピリンなど)を心房細動の患者さんに脳梗塞の予防投与されていた経緯もありますが、こちらは心原性脳梗塞に対しては効果がないことが分かっています。
抗血小板薬は、動脈硬化性の脳梗塞や心筋梗塞の予防薬として非常に有効ですが、心房細動で起きる血栓予防はメカニズムが違うということがここからもわかります。

② 心不全の予防

心房細動で脈が速い状態が続いてしまいますと、心臓が空打ちをするような状況となり心不全を起こしてしまいます。
心房細動とうまく付き合っていくためには心房細動のリズムコントロールと言われるものがもう一つ大切な治療です。
リズムコントロールとは、心拍数を上げないようにする治療です。βブロッカーと呼ばれるお薬を内服して、脈拍が早くなりすぎないようにします。
心臓の動きが悪い患者さんでは、ジギタリスと呼ばれる強心薬を併用して使用する場合もあります。
これらの治療で脈拍をコントロールしても、なお足のむくみが取れなかったり、肺に水が溜まってしまっているような状況では利尿剤などを内服して、全身の血液循環をコントロールします。

当院での心房細動治療

患者さんと、心房細動を治すのか、うまく付き合っていくのか、検査やご相談をしながら決めていきます。
根治率が高そうでご希望があれば、アブレーション技術に習熟した病院へご紹介します。
根治術には不向きなご病状であれば、上手に付き合っていくためのお薬のご相談をします。
心臓の状態によって、また合併疾患等によって、お薬の選択は全く異なってきますので、お一人お一人でどういったものが一番良いか、お話しながら決めていきます。
是非一度ご相談ください。